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Gaze Probing: イベント提示に基づく注視オブジェクト推定

注視対象推定におけるユーザの自由度と視線計測精度とのトレードオフ

街中やショッピングモールでの大画面端末やテレビなど,ディスプレイ型の情報提示システムにおいて,画面に提示されたオブジェクトのうちユーザが実際にどのオブジェクトを注視しているかという情報は,ユーザの興味や関心を知る上で重要な手掛かりである.赤外線照射型の視線計測システムに比べ,照射を行わないパッシブなカメラベースの視線計測システムは,ユーザの立ち位置や顔向きの制限が少なく,このような日常環境での使用が適してるといえる.しかし一方で,十分な計測精度を確保することは難しく,ディスプレイ上の提示コンテンツを疎に配置するといった対応が必要であった.そこで本研究では,提示オブジェクトにスクロールなどの動きを取り入れた「動的コンテンツ」を用いて,ユーザの注視オブジェクトを高精度に推定する手法「Gaze Probing」を考案した.

コンテンツの動きと眼球運動の同期に基づくGaze Probing

Gaze Probingでは,計測誤差の影響を受けやすい眼球運動の変位パターンを直接用いるのではなく,眼球運動が「いつ」発生したかという時間的な情報を抽出し,コンテンツの動きと眼球運動との同期の程度を分析することで,ユーザの注視オブジェクトを高精度に推定する.まず,計測誤差が大きな視線データにおいても眼球運動の反応が観測できるような,特徴的な短時間の動き(イベント)をデザインし,ユーザの注視オブジェクトを探るためのプローブとして,各オブジェクトの動きの一部に組み込んでおく(図1に用いた動的コンテンツの例を示す).このような動的コンテンツを提示されたユーザは,注視オブジェクトのイベントに対応した反応が,本人が気付かないうちに視線データに現れ,その時刻を検出できる(図2).このとき,「ユーザがどの時刻のイベントに反応したか」という時間的な情報を用いることで,視線計測の精度を十分に望めない(ユーザの自由度の高い)状況でも,従来手法に比べ,ユーザの注視オブジェクトを高精度に推定することが可能となる(図3).本研究は,ユーザにとって自然な動的コンテンツのデザイン法を工夫することで,ユーザの興味を推定し,適切なタイミングで効果的な情報推薦を行うインタラクションシステムなどへの応用が期待できる.

event pattern

図1. イベントが組み込まれた動的コンテンツ例

accuracy

図3. 推定精度(絶対座標やパターン類似性による手法との比較)

gaze pattern

図2. 反応検出(上:視線データ,下:組み込まれたイベント発生時刻(○),視線から検出された反応(*),注視オブジェクトの真値(一点鎖線))


参考文献

  1. [PDF] 米谷竜, 川嶋宏彰, 平山高嗣, 松山隆司, "Gaze Probing: イベント提示に基づく注視オブジェクト推定", ヒューマンインタフェース学会, Vol.12, No.3, pp.125-135, 2010.
  2. [PDF] Ryo Yonetani, Hiroaki Kawashima, Takatsugu Hirayama, Takashi Matsuyama, "Gaze Probing: Event-Based Estimation of Objects Being Focused On", 20th International Conference on Pattern Recognition (ICPR), 2010 (IBM Best Student Paper Award).
  3. 米谷竜, 川嶋宏彰, 平山高嗣, 松山隆司, "注視オブジェクト推定のための動的コンテンツデザインとその評価", 情報処理学会創立50周年記念(第72回)全国大会, No.5, pp.141-142, 2010.
  4. 米谷竜, 川嶋宏彰, 平山高嗣, 松山隆司, "Gaze Probing: イベント提示に基づく注視対象推定", 第12回画像の認識・理解シンポジウム (MIRU), pp.1713-1720, 2009.
  5. 米谷竜, 川嶋宏彰, 平山高嗣, 松山隆司, "提示イベントと眼球動作との同期構造分析に基づく注視対象推定", 情報処理学会研究報告, Vol.2009-CVIM-167, No.16, 2009.
  6. 特許発明, "注視対象判定装置及び注視対象判定方法", 国際出願PCT/JP2010/003700, 2010.6.3. (出願権譲渡済み)