研究内容

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間の合った発話タイミング制御を目的とした漫才の動的構造の分析

対話の動的構造

人間同士の対話は,単に言語的な意味を伝えるだけでなく,意欲を高める,楽しい雰囲気を作るなどといった,より上位の目的・意図を持つことが多く,その伝達には非言語的な情報が大きな役割を担っていると考えられる.たとえば漫才では,冗談を言い出す,もしくは突っ込みをいれるタイミングにより,客に伝わる面白さがまったく変わってくる.そこで本研究では,間の合った発話タイミング制御を実現する音声対話システムの設計を目指し,漫才の動的な対話構造を様々な時間スケールで分析した(落語における視覚的間合いの分析も参照のこと).

漫才の対話コーパスの作成

漫才は通常の対話と比較すると,(1)発話のペースが速く,発話タイミングの取り方で対話のトーンが大きく変化する,(2)発話者の役割がボケ役とツッコミ役に分かれており,個々の発話の持つ役割がはっきりしている,(3)事前に用意された台本と,客を笑わせるという明確な目的が存在する,といった特徴を持つ.しかし,一般に使用されている対話コーパスは,電話での対話や部屋の中での二人の会話などが多く,漫才の対話コーパスは存在しない.本研究では,まず市販の漫才ビデオよりボケ役・ツッコミ役の発話区間および客の笑い声区間をセグメンテーションし,発話内容を書きおこすことで,漫才の対話コーパスを作成した(図1).さらに,個々の発話のもつ役割として,Jurafsky らのDialog Act(DA, 発語内行為)に基づいたcontinuer(相槌)やagreement(同意), statement(陳述)などに,漫才に特有のtsukkomi発話を加えた約10種類のラベルを設け,コーパス内の発話に付与した(図2).

manzaicopus

図1. 漫才対話コーパスの構造

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図2. Dialog Actが付与された漫才対話コーパス(色がDAラベルを表す)

漫才の動的構造の分析

作成した漫才コーパスに基づいて,ツッコミ役の「間」の取り方が何に基づいて決まるかについて,以下の4通りの異なる時間スケールで分析した.

1. 発話移行区間の1次元分布
一方の発話終了時刻に対する他方の発話開始時刻を発話移行区間と呼ぶ.ボケ役とツッコミ役のそれぞれに関するヒストグラム,およびDA別のヒストグラムを計算し,いくつかの知見が得られた.例えば,ボケ役の分布の中心がほぼ発話移行区間の長さ0にあるのに対し,ツッコミ役では負,すなわち相手の発話が終了する前に発話を開始するというオーバラップの傾向が見られた (図3).これは,ツッコミ役にとっては,オーバラップを伴う発話が,対話の勢いなどを生み出すために重要であると考えられる.また,DAのラベルによって発話移行区間長が大きく異なることが分かった(文献およびこちらも参照のこと).
2. 隣接発話間の構造
ツッコミ役のひとつ前の発話移行区間が,次の発話移行区間に与える影響を統計的に解析したところ,正の相関がみられた.これは,多くの隣接する発話では,相手の発話に対する間の取り方を急激に変えず,テンポを保った発話を行っているからであると考えられる.
3. 連続発話間の構造
ツッコミ役の連続する発話を,個々の発話の持つ役割に基づいて分析を行った.具体的には,ツッコミ役のDAラベル系列から可変長Nグラムモデルを構築することで,特徴的なDAのパターンを抽出した.例えば,ツッコミ役にはcontinuer の後にtsukkomi が表れるDA パターンや,tsukkomiを連続して複数回用いるパターンが頻出することが分かった.これらDA パターンを効果的に利用することにより,漫才独自のテンポを生み出していると考えられる.
4. 話題間の構造
漫才は,あるテーマに沿って複数のサブ話題が現れる.これら話題間での特徴比較を行った.その結果,発話オーバラップの割合は話題ごとに大きく変化することが分かった (図4).話題毎にタイミングの取り方を切り換えることで対話の流れに緩急をつけ,観客を引きつける効果を与えていると考えられる.

以上の分析は,文脈に応じて発話タイミングを動的に制御するような「間の合った」音声対話システムの設計につながると期待できる.

tsukkomi role histogram

図3. ツッコミ役の発話移行区間長の分布

mean interval length (subneta)

図4. サブ話題毎の発話移行区間長(水平赤線は平均値)


参考文献

  1. [PDF] 川嶋宏彰, スコギンズ・リーバイ,松山隆司, "漫才の動的構造の分析—間の合った発話タイミング制御を目指して—", ヒューマンインタフェース学会, vol.9, No.3, pp.379-390, 2007.
  2. スコギンズ・リーバイ, 川嶋宏彰, 松山隆司, "間の合った発話タイミング制御を目的とした漫才の動的構造の分析", インタラクション2005, D-404, 2005.
  3. "間の合った発話タイミング制御を目的とした漫才の動的構造の分析", 第9回共創システム部会研究会, 2005.4.27 (COE21エージェントベース社会システム科学との共催)